ニフティ「本と雑誌のフォーラム」事件第一審判決

 

事件名 ニフティ「本と雑誌のフォーラム」事件第一審判決
東京地裁 平成11年(ワ)第2404号
判決名 東京地判平成13(2001)年8月27日(控訴)
掲載誌 判時1778号90頁
判例評釈  
備 考  

 

  

判      決

 



主     文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 被告は,原告に対し,金100万円及びこれに対する平成11年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,ニフティサーブ会員ID番号QWS06765番の契約者の氏名及び住所を明らかにせよ。

第2 事案の概要
 本件事案の概要は次のとおりである。
 原告は,被告が「ニフティサーブ」の名称で提供しているパソコン通信サービスの会員に加入し,そのサービスの提供を受けていた者であるが,ニフティサーブ上で,〔1〕ニフティサーブ会員ID番号QWS06765番(ハンドル名,A,以下「A」という)から「あなたの妄想特急の勢いには,ほとほと感服いたします。ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。精神的文盲というものが存在するのではないかと思い始めた今日この頃です」,「自称東大卒に至ってはむしろ同情しております」,「禁治産者って,裁判起こせないんじゃなかったっけ(笑)?,証拠提示なき妄想申立を,果たして裁判所が受理するか,私も非常に楽しみです(笑)」などと発言されたことにより名誉毀損及び侮辱の被害を受けた,〔2〕Aが,ハンドル名に原告の本名を使用したことで,原告はプライバシー侵害及び嫌がらせの被害を受け,ニフティサーブを管理運営している被告が,Aの前記各不法行為に対し,適切な措置をとらなかったために精神的被害を受けたなどと主張して,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償請求をしている。また,原告は,被告が,合理的な理由がないのにAの契約者情報(氏名及び住所)を隠匿,隠蔽し,原告の名誉権回復を妨害しているとして,人格権による差止請求権及び不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠にAの氏名,住所の情報開示を求めている。
 他方,被告は,〔1〕Aの発言自体,原告に対する不法行為に当たらないとし,また,〔2〕仮に,Aの発言が原告に対する不法行為に当たるとしても,被告は適切な対応をとっていたから被告には責任がないと反論している。また,Aの氏名,住所の開示請求に対しては,原告には開示を求める法的根拠がなく,また,契約者情報は電気通信事業法(以下「電通事業法」という)4条の「通信の秘密」に当たるから開示できないと主張している。

1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する)
(1)当事者
ア 被告は,パーソナルコンピューター,コンピューター等の装置間の通信を主体とした一般第二種電気通信事業及び関連情報処理サービス業等を業とする株式会社である。被告は,平成11年10月31日まで,「ニフティサーブ」の名称でパソコン通信サービスを提供しており,現在も同様のサービスを「アット・ニフティ」の名称で提供している。
イ 原告は,平成7年10月3日,被告との間で,ニフティサーブの会員(以下,単に「会員」ともいう)の加入契約を締結し,ID番号BYS04662番として,被告からパソコン通信サービスの提供を受けている者である。
(2)ニフティサーブの概要《証拠略》
ア ニフティサーブの仕組み
 ニフティサーブは,パソコンなどの情報端末を,電話回線やインターネットを使ってホストコンピューターに接続し,会員同士が情報交換したり,ホストコンピューター内に蓄えられた情報を引き出したりするコミュニケーション手段である。
イ ニフティサーブ会員規約(以下「会員規約」という)
 ニフティサーブは,電子メール,フォーラム,ステーション,パティオ,インターネット接続その他各種サービスにより構成されており,会員は,これらのサービスを,会員規約に従って利用することができると同時に,会員規約を遵守する義務を負う。会員は,被告に対し,接続時間に応じて利用料金を支払う。
ウ ハンドル名
 ハンドル名とは,ニフティサーブにおいて,会員が自己を表示するために用いる呼称をいう。ハンドル名は,原則として漢字で8文字以内という字数のほかには特に制限がない。
また,会員は,ハンドル名を使用しないで,本名を用いることもできる。
エ フォーラム
(ア)フォーラムとは,同じ趣味や共通のテーマを持つ会員同士が集まり,議論を行ったり,情報を交換したりする場のことをいい,会員のサークル的なエリアであり,特定のテーマごとに設置される。フォーラムの中心となるのが「電子会議室」で,フォーラムへの入会が認められた会員であれば自由に発言でき,その発言内容は,原則として会員に対し公開される。フォーラムにおける発言は,発言者を特定,表示するために,発言内容の冒頭に会員番号とハンドル名が表示される。
(イ)本と雑誌フォーラム(以下「本件フォーラム」という)は,〔1〕本と雑誌リーダーズフォーラム,〔2〕本と雑誌フォーラム談話室,〔3〕本と雑誌クリエイターズフォーラム(以下「FBOOKC」という),〔4〕ライティングフォーラム,〔5〕大人の本と雑誌フォーラム(以下「FBOOKA」という)により構成されているフォーラムである。
 FBOOKAにおいては成人向けの本や雑誌に関する話題が,FBOOKCにおいては出版メディアを創作の舞台とするクリエイター達の議論の場を目的として,意見や情報の交換,作家や編集者の育成,サポート等を行っている。
(ウ)フォーラムの運営,管理は,フォーラムマネージャー(SYSOP,以下「シスオペ」という)によって行われる。本件フォーラムのシスオペは,訴外B(以下「訴外B」という)であった。
オ パティオ
 パティオとは,親しい会員が議論や情報交換を行う仮想的会議室である。
 会員は,パスワードを入力するか,入会承認を得れば自由に発言内容を閲覧することができる。
(3)本件訴訟提起に至るまでの事実経過の概要《証拠略》
ア 原告は,平成9年9月ころから,主に「A〜E」のハンドル名で,本件フォーラムに参加し,意見を述べるようになった。
イ ニフティサーブ会員ID番号QWS06765番(ハンドル名,A)も,本件フォーラムで,意見を述べていた。
ウ 原告は,平成10年3月21日,ハンドル名「C」に対し,別表1符号3記載のとおり,Aの発言(別表1符号2)が,自分に対する個人的侮辱であるとの発言をした。この原告発言を端緒として,原告とAとの間で,概要,別表1記載のとおりの発言が繰り返された。これらの発言は,本件フォーラムの会議室及びパティオで行われており,原則として,原告とA以外の第三者も閲覧することが可能であった。
エ Aは,平成10年6月20日,本件フォーラムで,別表2符号1記載のとおり,「D」というハンドル名を使用した。
オ Aは,平成10年12月11日午後4時1分ころ,別表2符号2記載のとおり,「E」というハンドル名を使用した。これに対し,原告は,平成10年12月14日,被告に対し,「E」のハンドル名での発言を中止させること及びAとハンドル名「F」(会員番号QWN04405)が同一人物ではないことの確認等を求めた。これに対し,被告は,平成10年12月18日,原告に対し,調査の結果,「E」というハンドル名での発言は見当たらないこと,AとFが同一人物であるかについては,個人情報であるから開示することはできないと伝えた。
カ 原告は,平成10年12月18日及び同月20日,被告に対し,AとFが同一人物でないことの保証及びAの除名処分を求め,同月24日には,AとFが同一人物でないことの保証及びAを除名処分にすること,被告が原告の要求を拒否した場合には提訴することを内容とする内容証明郵便を送った。これに対し,被告は,平成10年12月29日,原告に対し,個人情報の開示はできない旨回答した。
キ Aは,平成11年1月26日から同年7月23日にかけて,別表2符号3ないし28記載のとおり,「G」のハンドル名を使用した。この間,原告は,平成11年1月26日,FBOOKC会議室で,本件フォーラムのスタッフに対し,ハンドル名を「A〜E」から本名である「甲1」に変更し,「G」のハンドル名で発言したA発言の保留を求めた。
ク 原告は,平成11年2月3日,被告に対し,Aの除名処分,個人情報開示等を求める本件訴訟を提起した。

2 争点
(1)Aの行為は,原告への名誉毀損,侮辱,プライバシー侵害,嫌がらせに当たり,原告に対する不法行為が成立するか。
【原告の主張】
ア 名誉毀損及び侮辱について
(ア)Aは,平成10年3月21日,FBOOKCにおいて,原告に対し,別表1符号4記載のとおり,「やれやれ,妄想系ばっかりかい,この会議室(笑)?」と発言した(以下「本件発言1」という)。
 本件発言1は,これを読む者に,原告があたかも,被害妄想をもってAを弾劾しているとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(イ)Aは,平成10年3月29日,FBOOKCにおいて,原告に対し,別表1符号13記載のとおり,「最低でも妄想電波混じりの虚偽の発言だけでもお控え下されば幸いです。」と発言した(以下「本件発言2」という)。
 本件発言2は,これを読む者に,原告の発言が虚偽で妄想に満ちているとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(ウ)Aは,平成10年12月9日,FBOOKAにおいて,原告に対し,別表1符号19記載のとおり,「あなたの妄想特急の勢いには,ほとほと感服いたします。ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。精神的文盲というものが存在するのではないかと思い始めた今日この頃です。レスにしろ辞書にしろ,きちんと字が読めてますか,A〜Eさん?」との発言をした(以下「本件発言3」という)。
 本件発言3は,これを読む者に,原告の反論が的外れであり,その原因が原告の精神的障害に基づくものであるとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(エ)Aは,平成10年12月9日,FBOOKAにおいて,原告に対し,別表1符号20記載のとおり,「日本語さえまともに綴れない・読めない『自称東大卒』に至っては,むしろ同情すらしております(自称・病気だそうだからしかたないんだろうけど。他の本物の東大卒に対して名誉毀損だよな)。」との発言をした(以下「本件発言4」という)。
 本件発言4は,これを読む者に,原告が自己の学歴を偽っておりいるとの印象を与えるもので,また,原告の主張及びその発言内容が日本語として体をなしていないとの発言により,原告は侮辱された。よって,本件発言4は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(オ)Aは,平成10年12月4日,バトルウオッチャーパティオにおいて,別表1符号22記載のとおり,「電波直撃」との題で発言した(以下「本件発言5」という)
 本件発言5は,これを読む者に,原告が虚言を用いてAを糾弾しているとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(カ)Aは,平成10年12月4日,バトルウオッチャーパティオにおいて,別表1符号23記載のとおり,「電波障害(爆)がそちらに行っちゃいましたか」との発言をした(以下「本件発言6」という)。
 本件発言6は,これを読む者に対し,原告の発言が根拠のない誤った妄想であるとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(キ)Aは,平成11年2月12日,原告パティオにおいて,別表1符号26記載のとおり,「禁治産者って裁判起こせないんじゃなかったっけ(笑)?」,「証拠提示なき妄想申立を,果たして裁判所が受理するか,私も非常に楽しみです。」との発言をした(以下「本件発言7」という)。
 本件発言7は,これを読む者に,原告が禁治産者であるとの虚偽の事実を摘示し,また,原告の申立てが妄想に基づくものであるとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
イ プライバシー侵害及び嫌がらせについて
(ア)Aは,ハンドル名を「D」,「E」,「G」として,本件フォーラム及びパティオで発言することにより,ハンドル名「A〜E」が原告であり,その本名が甲1(若しくは甲1)であるとの事実を公開した。原告の本名は個人情報であり,情報をコントロールする権利は原告にある。Aは,敢えて原告の本名をハンドル名に使用することで,原告の情報コントロール権を侵害した。
 原告は,パソコン通信における公開発言の場では一切本名を使用することはなかった。Aは,原告に対し,本名を含む原告のプライバシーを掌握しており,それらをいつでも公開できると誇示して,精神的障害を持つ原告に大変な苦痛を与えた。更に,Aの行為は,「A〜E」が原告であることを知っている本件フォーラムのメンバーに対して,Aと原告は同一人物であるとの混同を引き起こしてもいる。
(イ)以上によれば,Aの各行為は原告に対するプライバシー侵害及び嫌がらせ行為に当たり,Aは原告に対し不法行為責任を負う。
ウ 被告の主張に対する反論
 他人のプライバシーや名誉などの権利を侵害することは許されず,表現行為が不法行為に当たるかについては,個別具体的な表現行為が違法性を有するかについて検討すべきである。
 Aは,議論の流れの中で自己の主張を基礎づけるために,合理的な理由及び必要性があって原告の名誉を毀損し,プライバシーを侵害したのではない。敢えて原告に対する激烈な表現を使用し,原告を必要以上に揶揄したり,極めて侮辱的な表現を繰り返し行うなど,その内容はいずれも原告に対する個人攻撃に終始しており,その違法性の程度は強いものがある。
【被告の主張】
ア 名誉毀損及び侮辱について
(ア)原告は,Aが原告に対してした発言の一部分を取り上げ,名誉毀損ないしプライバシー権侵害であると主張する。しかし,原告が,取り上げたAの原告に対する発言は,原告とAとのやりとりのうち,Aの発言を一方的に取り上げたものにすぎない。
(イ)原告とAとのやりとり全体及びその流れを総合的に検討した場合,原告及びAの各発言は,飽くまで原告とAの言い争いの域を出るものではなく,本件フォーラム及びパティオではありがちな発言と判断できる程度のものであった。
(ウ)以上のとおり,Aの各発言は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱行為と評価されるものではない。
イ プライバシー侵害及び嫌がらせについて
(ア)Aが,ハンドル名として用いた「D」,「E」,「G」は,原告の本名である「甲1」とは異なるし,「甲1」の名称が一般に非公知性のある名称であるか否か不明である。
 そもそも,原告が,平成11年1月26日,「甲1」が自分の本名であることを公表しなければ,その事実さえ第三者には全く不明であった。
(イ)Aは,自らが使用した各ハンドル名が,原告の本名である「甲1」と同一である旨の発言,混同を招く発言,原告の本名を暴露する発言などは一切していない。また,Aが,原告の本名を何らかの手段で知り,原告に対する嫌がらせの目的で前記(ア)の各ハンドル名を使用したと認めるに足りる根拠もない。
(ウ)以上のとおり,Aが,本件フォーラム及びパティオにおいて,「D」,「E」,「G」のハンドル名を使用したことは,何ら,原告のプライバシー権侵害行為及び嫌がらせ行為には当たらない。
(2)被告は,原告に対し,債務不履行責任ないし不法行為責任を負うか。
【原告の主張】
 電通事業法1条が同法の目的として「利用者の利益の保護」を挙げていること,ニフティサーブ上で被害を受けた会員を保護することができる立場にあるのは被告のみであること,被告は会員に対して有償で各種サービスを提供していること等に照らすと,被告は,会員が,ニフティサーブの利用により犯罪あるいは不法行為の被害に遭遇しないように配慮し,損害の発生を未然に防止し,損害発生を防止できない場合には損害を最小限にくい止め,被害回復のために必要不可欠な措置を採るべき契約上の安全配慮義務を負っている。
 具体的には,被告は,会員の名誉やプライバシーを侵害する書き込みがないかを常時監視し,このような書き込みがされた場合にはこれを削除し,会員の損害を最小限度に押さえるべき義務を負っている。更に,被告は,不法な発言をした会員に対し,適切な指導をし,必要があれば,サービスの利用停止,除名などの処分をとり,被害者が加害者との直接的な紛争の解決を望む場合には,加害者の個人情報を開示するなどして紛争の解決に協力する義務を負っている。
 しかるに,本件では,被告は,原告の再三の申出にもかかわらず,これらの義務を怠っている。よって,被告は,原告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき責任を負う。
【被告の主張】
ア 安全配慮義務に対し
 被告の通信サービスに関する会員契約においては,被告は,原告が主張するような安全配慮義務を負っていない。のみならず,そもそも本件では,Aの発言は,原告に対する名誉毀損に当たらないから,安全配慮義務自体が問題とならない。また,健常人は,精神障害者に対し,精神的損害を被らせないよう配慮する義務があるという前提自体,法的には無理な主張である。
イ 注意義務違反に対し
(ア)被告の調査によれば,〔1〕原告が主張するAの発言については,原告とAの言い争いのようなものであり,原告のAに対する発言の中にも刺激的な内容が含まれていること,〔2〕シスオペの措置により,原告とAとの間のトラブルは,一般参加者が閲覧することのできない特別会議室に移行させていること,〔3〕シスオペの措置により,自主的にAによる「甲1」というハンドル名の使用が止められていること,〔4〕Aが原告に対する嫌がらせ目的で「甲1」のハンドル名を使用したとは確認できないことがそれぞれ判明した。
(イ)原告の被告に対する要求は,Aの個人情報開示及び除名処分であるところ,かかる要求は何ら法的根拠のない不合理な要求にすぎない。よって,被告は,原告の前記要求に応じるべき義務はなく,応じなかったことにつき責任がない。
(ウ)また,訴外Bは,本件フォーラムのシスオペとして,Aの発言に対して適切に対処しており,原告に対しても,親身な対応をとっており,被告には責任はない。
(3)原告は,被告に対し,Aの個人情報について開示を求めることができるか。また,被告が,原告に対し,Aの個人情報について開示を拒絶することは正当か。
【原告の主張】
ア 情報開示請求の法的根拠について
(ア)名誉権は,その性質上,一旦侵害されると,侵害者による謝罪広告等がない限り,十分には回復せず,侵害された状態が継続する。本件でも,Aによる謝罪広告等をまたない限り,侵害された原告の名誉権は回復しない。他方,本件のようなパソコン通信上での名誉毀損事件の特質として,プロバイダーである被告による加害者の情報開示がなければ,被害者が,加害者に謝罪を求めることは絶対に不可能であり,被害者の名誉権回復の機会は完全に失われる。
(イ)よって,被告が,原告の名誉権が侵害されたことを知りながら,合理的理由なく,Aの契約者情報を秘匿,隠蔽し続けることは,原告の名誉権に対する積極的,継続的な侵害行為に当たり,このような場合,原告は,被告に対し,侵害行為に対する人格権に基づく差止請求権あるいは不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠に,Aの契約者情報の開示を請求することができると解すべきである。
イ 通信の秘密に関する被告の主張に対する反論
 ID番号06765番という会員番号と契約者名等との結びつきは,単なる顧客情報であるにすぎない。また,会員規則12条には,会員がニフティサーブのサービス提供を受けるに当たり,損害を被っても,被告は免責されるとの規定があるから,被告は,Aの個人情報を開示しても会員に対し何ら責任を負わない。
 以上によれば,電通事業法4条の通信の科密における守秘義務を根拠にAの個人情報開示を拒否する被告の主張には理由がない。
【被告の主張】
ア 情報開示請求の法的根拠について
 不法行為に基づく妨害排除請求を根拠に契約者情報開示請求が可能であるとは解されない。また,人格権侵害に基づく請求は,人格権侵害状態を除去又は予防して侵害前の状態に回復し,又は現状を維持することがその内容であり,回復を維持する前提としての請求はその内容に含まれていないところ,原告の情報開示請求は回復を維持する前提としての請求であり,理由がない。
イ 情報開示拒否の正当性について
(ア)通信サービスを提供している被告は,電通事業法の適用を受け,電気通信事業者として,その取扱中に係る通信の秘密を犯してはならない法律上の義務を負っている(電通事業法4条)。
(イ)電通事業法4条にいう通信の秘密とは,通信内容にとどまらず,通信当事者の住所,氏名,発信場所等の通信の構成要素や通信回数等の通信事実の有無を含んでいる。
(ウ)原告が開示を求めているAの氏名,住所に関する情報は,通信の構成要素であるから通信の秘密に該当する。よって,被告は,電通事業法4条に照らし,Aに関する情報開示を拒否するについて正当な理由を有している。
(4)被告の行為により原告は損害を被ったか。仮に損害を被った場合,その損害額は幾らか。
【原告の主張】
ア 原告は,被告がAによる不法行為を放置し,Aの契約者情報を開示せず,Aに対する権利行使を妨害したために,深刻な精神的苦痛を被った。また,原告は,本件訴訟提起後の被告による不誠実な対応により,更に精神的苦痛を被った。
イ 原告は,医師から情緒不安定性人格障害(境界型)の診断を受けており,他人から被る名誉毀損行為やプライバシー権の侵害行為に対して通常人よりも傷つき易く,被告の行為により,甚大な精神的損害を被った。
ウ したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく慰謝料請求権を有する。原告の苦痛を金銭に換算することは困難であるが,強いて換算すると,原告の精神的損害は200万円を下らず,原告は,本件訴訟ではそのうち90万円及び弁護士費用10万円の合計100万円を請求する。
【被告の主張】
 争う。
 本件では,そもそも,Aの各発言が不法行為に該当しない。よって,原告がAの各発言により極度の精神的失調に陥ったとしても,それは,原告による一方的かつ極端な思いこみによるものにすぎず,損害の発生自体認められない。

第3 争点に対する判断
1 原告は,Aの各行為が,原告に対する不法行為に当たることを前提に,被告に対し,損害賠償及びAの個人情報開示を求めている。そこで,まず,Aの各行為が,原告に対する不法行為に当たるか(争点(1))につき検討することにする。
(1)名誉毀損ないし侮辱を理由とする不法行為の成否について
ア パソコン通信上の表現行為の特性
(ア)Aの本件発言1ないし7(以下「本件各発言」という)は,いずれも被告が提供するパソコン通信サービス上の本件フォーラム会議室又はパティオで行われている。
(イ)パソコン通信上の表現行為が,人の名誉ないし名誉感情を毀損したと認められるような場合には,表現行為者は,対象者に対し,不法行為に基づく責任を負うと解するのが相当である。
 しかし,《証拠略》及び弁論の全趣旨によれば,〔1〕本件各発言が行われたフォーラムやパティオは,同じ趣味や共通のテーマに関心を持つ会員が集まり,議論を行ったり,情報を交換したりする場所であること,〔2〕フォーラムやパティオに書き込まれる発言は,一般に,フォーラムやパティオの会員等特定の人に限り理解することが可能な表現が多く用いられ,当該フォーラム,パティオに書き込まれた過去の発言を前提にしていることも少なくないから,不特定多数の第三者が,フォーラムやパティオでの発言内容を即時に把握することは容易ではないことが認められる。
 したがって,フォーラムやパティオに書き込まれた発言が人の名誉ないし名誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっては,問題の発言がされた前後の文脈等に照らして,発言内容が不特定多数の第三者に理解可能か否か,当該発言内容が真実と受け取られるおそれがあるか否かを判断の基礎とする必要がある。
(ウ)加えて,言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが表現の自由(憲法21条1項)の基本原理であるから,被害者が,加害者に対し,十分な反論を行い,それが功を奏した場合は,被害者の社会的評価は低下していないと評価することが可能であるから,このような場合にも,一部の表現を殊更取り出して表現者に対し不法行為責任を認めることは,表現の自由を萎縮させるおそれがあり,相当とはいえない。
(エ)これを本件各発言がされたパソコン通信についてみるに,フォーラム,パティオへの参加を許された会員であれば,自由に発言することが可能であるから,被害者が,加害者に対し,必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体であると認められる。したがって,被害者の反論が十分な効果を挙げているとみられるような場合には,社会的評価が低下する危険性が認められず,名誉ないし名誉感情毀損は成立しないと解するのが相当である。
 また,被害者が,加害者に対し,相当性を欠く発言をし,それに誘発される形で,加害者が,被害者に対し,問題となる発言をしたような場合には,その発言が,対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り,違法性を欠くこともあるというべきである。
(オ)以上のようなパソコン通信上の表現行為の特性に照らすと,パソコン通信上の発言が人の名誉ないし名誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっては,発言内容の具体的吟味とともに,当該発言がされた経緯,前後の文脈,被害者からの反論をも併せ考慮した上で,パソコン通信に参加している一般の読者を基準として,当該発言が,人の社会的評価を低下させる危険性を有するか否か,対抗言論として違法性が阻却されるか否かを検討すべきである。
 そこで以下,このような観点から,本件各発言が原告に対する名誉毀損ないし侮辱行為に当たるかにつき検討する。
イ 本件各発言の検討
(ア)本件発言1について
a 別表1符号4記載のとおり,Aは,本件発言1で,会議室が妄想系の人物ばかりであると指摘していること,前記指摘の直前で,原告について,少々自意識過剰であるとも発言しているから,妄想系の人物の中には,原告も含まれていると理解することができる。よって,本件発言1の内容それ自体は,原告に対する侮辱的な表現であると認めることができる。
b しかし,前記争いのない事実等及び《証拠略》並びに弁論の全趣旨によれば,本件発言1は,原告が,Aの発言(別表1符号2ほか)を原告に対する個人的侮辱だと指摘したこと(別表1符号3)を契機に発言されたものだと認められるところ,問題とされたA発言は,原告に対する発言ではなく,その内容も原告を個人的に侮辱する表現とは認められない。したがって,Aが,原告の前記指摘に対し,少々自意識過剰であるとし,それに加えて,妄想系であると発言したことも許容される表現であると認めるのが相当である。
c 更に,《証拠略》によれば,原告は,本件発言1の後に,本件フォーラムで,「もう一つ,ここに許されざる形の妄想がある。それはAさん,貴方ご自身の妄想です」,「徹底的に相手を貶めた心象を一応,公式の場で披露する,貴方の精神の脱ぎっぷりには脱帽します。ここまで書けば,反感を買うなんてもんではなく,言った当人の精神構造が異常だと確信させてしまうものだからです」,「Aさんの底知れぬ悪意に反吐が出ます」と発言しており(別表1符号5),これらの発言内容は,本件発言1に対抗する言論として必要かつ十分なものであり,本件発言1の直後に行われているから,本件発言1により原告の社会的評価が低下する危険性は消滅したと認めるのが相当である。
d 以上によれば,本件発言1は,原告に対する名誉毀損及び侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(イ)本件発言2について
a 別表1符号13記載のとおり,本件発言2は,原告の本件フォーラムでの発言が,妄想電波混じりの虚偽の発言であると指摘し,原告に対し,発言を控えるよう求めるという内容であり,本件発言2自体は,原告に対する侮辱的表現であると認められる。
b しかし,前記争いのない事実及び《証拠略》並びに弁論の全趣旨によれば,本件発言2は,「私がAさんを暗に異常扱いしているのは,これは別物です。この人を私が,ネット犯罪者予備軍だと考えているからです。」,「Fさんという,明らかなネット犯罪者がかつてこのフォーラムにいました。その人と同じ行動ばかり取る,Aさんは『ネット犯罪者予備軍』と言えてしまう。だから,『異常だ』とかほのめかしているだけです。」,「ちなみにこういう書き込みをしている私自身も,ネット犯罪者と断定されてもしかたがないですね。」,「AさんやJさんもどきの人がが出てくると,また出てくるかも」という原告発言(別表1符号12)に対するコメントであり,原告の発言がその契機になっていることが認められる。
c そして,原告の前記bの発言が,Aについて,「ネット犯罪者予備軍」であるというように過激な指摘をしているのに対し,本件発言2は,妄想電波混じりの虚偽の発言であると反論するにとどまっているから原告の発言に対抗する正当な言論の行使として許された表現行為の範囲内であると解するのが相当であり,違法性が阻却されていると認めるのが相当である。
 また,本件発言2と原告の前記発言をみたパソコン通信に参加している一般の読者は,原告とAが本件フォーラム上で論争しており,本件発言2は,その一環として発言されていると理解するものと推認することができるから,本件発言2の内容が真実であるとは考えず,本件発言2によって原告の社会的評価は低下しないと解される。
d 加えて,本件発言2に対する原告のコメント(別表1符号14)は,やおい小説(主に女性が読むための男性同士の恋愛を扱った小説)に対するAの個人的回答を求める内容に終始しており,原告自身,当時は,本件発言2について,さほど問題にする意思はなかったことが推認できる。
e 以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言2は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(ウ)本件発言3について
a 別紙1符号19記載のとおり,本件発言3は,原告を精神的文盲であると指摘し,原告に対し,文字が読めているか確認する内容であるから,本件発言3それ自体は,原告に対する侮辱的表現であると認められる。
b しかし,前記争いのない事実等及び,《証拠略》並びに弁論の全趣旨によれば,本件発言3は,「他人の肩書きをあげつらっておいて,自分は何者なのか一切話せない人の言うことは信用しても無駄だけど。悔しかったら言えるもんならちゃんと言ってご覧なさい。『Aさん=帰国子女でよく日本語を知らない主婦』に一票」との原告の発言(別表1符号17)に対するコメントであり,原告の前記挑発的な発言に対する反論としては相当な言論行使の範囲内であると認められるから,違法性が阻却されているというべきである。
c 更に,《証拠略》によれば,原告は,本件発言3に対して,「ちょっと留守にするといい加減なことばかりほざいて,大変な人だな」とコメントするなど(別表1符号21)していることが認められ,必要かつ十分な反論をしており,本件発言3により,原告の社会的評価は低下していないと解するのが相当である。
d 以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言3は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(エ)本件発言4について
a 別表1符号20記載のとおり,本件発言4は,原告を日本語すらまともに綴ることも読むこともできない同情に値する人物であり,自称東大卒というが他の東大卒に対して名誉毀損であると指摘しており,本件発言4それ自体は,原告に対する侮辱的な表現であると認められる。
b しかし,前記争いのない事実等及び《証拠略》並びに弁論の全趣旨によれば,本件発言4は,前記(ウ)bの原告発言(別表1符号17)に対するコメントであり,原告の発言自体,Aに対して日本語をよく知らない主婦であると指摘するなど侮辱的な表現が用いられていること,本件発言4の直前に,原告は,Aが原告の間違いを指摘したことに関し,「『小中学校で児童・生徒の苛めの対象となっている憂さをネットで晴らす,変態的国語教師』みたいで私は嫌ですね。そういう変態よりは,きっぱり個人の趣味として社会的責任をもった上で,SMやったり全員合意の上でスワッピングでもしている方々の方が,変態度は遥かに低いと私は思います(^^)v。ところで,他人の経歴肩書きをあげつらうだけあげつらうAさん,貴方のご職業は名乗れないような恥ずかしいものなんだね(^^)v。だから言えないんだよね。言える人に焼き餅を焼くんだよね。Aさんてかわいそう(;_;)」と発言しており(別表1符号18),その発言内容は過激かつAに対する著しい侮辱表現であると認められる。本件発言4は,この原告発言に対する対抗言論として発言されているものと推認することができ,原告発言が著しい侮辱発言である以上,ある程度,Aの原告に対する表現が過激になっても許されると解され,本件発言4の内容は,許容された範囲内の表現であるから違法性が阻却されていると解するのが相当である。
c また,原告は,前記(ウ)認定のとおり,本件発言4の後,「ちょっと留守にするといい加減なことばかりほざいて,大変な人だな」(別表1符号21)という発言をしており,必要かつ十分な反論をしていると認められる。
d 以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,原告は本件発言4に対し必要かつ十分な反論をしており,本件発言4は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(オ)本件発言5,6について
a 原告は,本件発言5,6に関し,読む者に,原告が虚言を用いてAを糾弾しているとの誤った印象を与えるものであると主張する。しかし,別表1符号22,23記載のとおり,本件発言5,6には,抗議をしているのは原告であるとは明示されていないし,その前後の文脈をみても,本件発言5,6が,原告に対するコメントであることが明らかだとはいえない。よって,本件発言5,6により,原告の社会的評価が低下するおそれがあるとは認められない。
 もっとも,原告とAが本件フォーラムにおいて,論争していることを知る者には,「電波直撃」,「電波障害」という表現が,原告を意識して発言されていることは理解可能だと思われる。しかし,前記(ア)ないし(エ)で認定したとおり,Aの各発言に対し,原告は,必要かつ十分な反論をしており,本件発言5,6により,原告の社会的評価が低下するおそれがあるとは認められない。
b 以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言5,6は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱には当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(カ)本件発言7について
a 別表1符号26記載のとおり,本件発言7は,原告を禁治産者であるとし,禁治産者は裁判を起こせないのではないかと指摘している。また,原告が起こそうとしている裁判は妄想による申立てであると指摘しており,本件発言7の表現それ自体は,原告に対する侮辱的な表現に当たると認められる。
b しかし,,《証拠略》によれば,本件発言7は,Aを「悪質ネットワーカー」と指摘した原告の発言(別表1符号25)を契機として行われたものであることが認められ,また,原告は,前記(ア)ないし(オ)認定のとおり,Aに対し,必要かつ十分な反論をしてきていることをも考慮すると,原告の社会的評価は,本件発言7により,低下する危険性はないと認めるのが相当である。加えて,,《証拠略》及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件発言7に対し,「イエローカード1枚目(^^;),イエローカード制ですが当然2枚で退場です。」と発言していること(別表1符号27)からも推認できるように,本件発言7がされた当時は,殊更,この発言内容を問題にする意思はなかったことが認められ,本件発言7は,不法行為と認めるまでの違法性はないと解するのが相当である。
c 以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言7は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱には当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(2)プライバシー侵害あるいは嫌がらせを理由とする不法行為の成否について
ア プライバシー侵害について
(ア)プライバシー侵害による不法行為が成立するためには,公表された事柄が,〔1〕私生活上の事柄又はそのように受け取られるおそれのある事柄であること,〔2〕一般人の感受性を基準にして公開を欲しないと認められる事柄であること,〔3〕一般人に未だ知られていない事柄であること,さらには,〔4〕公表された事柄をみた一般人が,特定の人物を指していると認識できることが必要である。そこで以下,このような観点から,Aの発言が,原告のプライバシーを侵害したか否かにつき検討する。
(イ)前記争いのない事実等及び《証拠略》並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 原告は,青森家庭裁判所八戸支部に対し,名を「甲2」から「甲1」に変更する許可を申し立て,平成8年9月5日,許可された。
b Aは,別表2のとおり,平成10年6月20日に「D」のハンドル名で,同年12月11日に「E」のハンドル名で,同11年1月26日から同年7月23日にかけて「G」のハンドル名で発言した。
c 原告は,平成11年1月26日,FBOOKCの会議室で,本件フォーラムのスタッフに対し,ハンドル名を「A〜E」から本名である「甲1」に変更し,「G」のハンドル名を用いたA発言の保留を求めた。
(ウ)以上の認定事実及び弁論の全趣旨をもとに,本件を検討してみるに,〔1〕「D」,「E」,「G」というハンドル名をみたパソコン通信に参加している一般の読者は,当該各ハンドル名が,実在する特定の人物の名前を指しているとは考えないであろうこと,〔2〕Aが用いた各ハンドル名は,原告の本名と完全に一致せず,一般の読者の感受性を基準にすると,公開を欲しない事柄とはいえないこと,〔3〕原告は,Aが各ハンドル名を使用する以前に,ハンドル名「F」,「H」,「I」等不特定多数の人物に対し,本名でメールを送り《証拠略》,また,公開のフォーラム上で周囲に原告自身の学歴が判明する議論をしており(甲5の1),原告自身,パソコン通信上で匿名が維持されることを必要不可欠の要件として希望していたというには疑問が残ること,〔4〕原告の本名が非常に稀で,「まきこ」,「甲1」,「磨己子」と指摘すれば,原告と面識のない第三者も原告を指していると認識することは困難であること,〔5〕Aが,パソコン通信上て,原告あるいは「A〜E」のハンドル名を使用している人物と「甲1」,「磨己子」,「まきこ」を結びつけるような発言をしたり,原告の他のプライバシーを暴露したことを認めるに足りる証拠はないことがそれぞれ認められる。そうだとすると,Aの行為は,原告のプライバシーを侵害したとは認められず,この点に関する原告の主張は理由がないということになる。
イ 嫌がらせ行為について
(ア)次に,Aの行為が,原告に対する嫌がらせに当たるか否かについて検討する。
 ,《証拠略》及び弁論の全趣旨によれば,Aが,「D」というハンドル名を初めて使用したのは,原告と本件フォーラム上で論争を始めた後であることが認められるから,Aが,原告の本名を知った上で,原告の本名に類似したハンドル名を使用した可能性自体は否定できない。しかし,前記ア認定のとおり,Aが使用した各ハンドル名は,原告個人を特定するような内容とは認められないし,一般読者の感受性を基準とした場合,Aの行為をもって不法行為を構成するほどの権利侵害があったと認めることは困難というほかない。
(イ)以上によれば,Aの行為が原告に対する嫌がらせに当たることを理由とする原告の主張は理由がないということになる。

2 結論
 以上によれば,本件におけるAの各発言は,原告に対する名誉毀損,侮辱,プライバシー侵害,嫌がらせのいずれにも当たらないから,Aは,原告に対し,不法行為責任を負わない。よって,Aに不法行為が成立することを前提とした原告の被告に対する本件請求はいずれもその余の点を判断するまでもなく理由がない。よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第36部

裁判長裁判官 難波孝一

裁判官 足立正佳

裁判官 富澤賢一郎


別表1
別表2
 

 

 注 意

本判決文は、研究の便宜を目的として掲載しているものにすぎず、如何なる意味でも内容の正確性や真性を保証するものではありません。誤字・脱字等、不正確な部分が含まれている可能性がありますので、引用等の際は、必ず原本を参照して下さい。(岡村久道)

 

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