8 ハイテク犯罪等の特徴

 

コンピュータ犯罪の特徴として、対象が有体物ではなく情報であること、可視性や可読性がないこと、作成過程が他の文書と異なるうえ処理・加工が容易で犯罪の証跡が残りにくく証拠破壊のおそれも高いこと、高度な技術や専門的知識を利用した知能犯罪であることなどの点が、従来から指摘されてきた(安冨140頁)。

これに対しハイテク犯罪の特徴については、1997年開催のG8司法・内務閣僚級会合コミュニケにおいて、前述のとおり「技術」と「地球規模での通信」という言葉に力点が置かれている。

警察庁は、これらのコミュニケを受けて作成された前記「ハイテク犯罪対策重点推進プログラム」(1998年6月)において、ハイテク犯罪の特徴につき、捜査活動には情報通信に関する高度かつ最先端の技術的知識が要求されること、サイバー・スペースの時間的・地理的な無制約性により、「犯行現場と被害発生場所が地理的に離れる」、「被害が同時に、かつ、複数箇所で発生する」ことなどを指摘している。

1998年版「警察白書」では、「ハイテク犯罪の特徴」として、次の5点を指摘している。

  1.  匿名性が高い
    (コンピュータ・ネットワーク上では、相手方の顔や声を認識することはできず、筆跡、指紋等の物理的な痕跡も残らない。相手方が本人であるかどうかの確認は、専らID・パスワード等の電子データに依存して行われる。このようなコンピュータ・ネットワーク上の匿名性に目を着け、正規の利用者のID・パスワードを盗用するなどの不正アクセスにより、その利用者になりすましてハイテク犯罪を実行する事例が多発している)
  2.  犯罪の痕跡が残りにくい
    (コンピュータ・ネットワーク上の行為は、すべて電子データのやり取りであるため、その記録を保存するための措置を特に講じない限り、その痕跡は残らない。また、その記録が保存されている場合にも、改ざんや消去が容易である。)
  3.  不特定多数の者に被害が及ぶ
    (ホームページ、電子掲示板等は個人が不特定多数の者に情報を発信するための簡便なメディアとして注目されているが、これが犯罪に悪用された場合には、広域にわたり不特定多数の者に被害を及ぼすこととなるほか、被害が瞬時かつ広域に及ぶこともある。)
  4.  暗号による証拠の隠蔽が容易である
    (暗号が犯罪に悪用された場合には、その捜査が著しく困難になるという問題が生ずる。)
  5.  国境を越えることが容易である
    (インターネット等のグローバルなコンピュータ・ネットワークを利用すれば、国境を越えた情報の伝達・交換を瞬時にして簡便に行うことができるため、ハイテク犯罪は、従来の人、物、金の移動を伴う犯罪に比べ、その国際的性格が顕著である。)

さらに警察庁「情報セキュリティ政策大系」(2000年2月)においては、「匿名性、無痕跡性、ボーダレス性という特性を備えたネットワーク社会は、犯罪その他の不正行為に対して抑止力が働きにくい上に、ネットワーク上で犯罪等が行われた場合、広範な被害や影響を及ぼしかねない。また、インターネットに代表される公共利用のネットワークの地理的・時間的無制約性、不特定多数性は、個人から企業・政府までの多様な用途を満たし、爆発的な発展を遂げているが、同時に犯罪者や不正行為を行う者も同様にそれらの利便性を享受することとなる。」としている。

つまり、前記1、2及び5の結果、犯罪実行に対し「抑止力が働きにくい」上、3の特徴を有することになるとされているわけである(*貴志浩平「ハイテク犯罪の捜査に関する諸問題」警察学論集51巻7号101頁は、ハイテク犯罪の特徴として、犯罪の潜在性、ボーダーレス性、専門性・技術性、証拠隠滅の容易性を挙げ、犯罪者の特性として、匿名性・模倣性・罪悪感の希薄性という諸点を指摘している)。


 

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