「迷惑メール広告であふれる携帯電話」

 

                     岡村 久道

 

「月刊 国民生活」 2001年7月号国民生活センター)4頁所収)

 殺人や誘拐、監禁、少女買春など、最近では携帯電話の「出会い系サイト」に関連して、列島各地で相次いで凄惨な事件が発生している。

 昨年一〇月には茨城で殺人、今年一月には埼玉で殺人未遂、四月には茨城で殺人が発生しており、これらはすべて出会い系サイトで知り合った男の犯行だった。うち今年の二件は、交際していた少年に主婦が包丁で刺された事件だ。同月にはサイトで知り合ったばかりの男に松江の女性が誘拐され、風俗店に売り飛ばされかけた事件も報道された。翌五月には京都で土木作業員がメル友の女子大生を呼び出して殺害したとして逮捕され、別のOL殺害も自供している。広島と宮崎で男がメル友の女性を監禁したとして逮捕される一方、現職の警官や裁判官などが少女買春容疑で検挙されている。

 こうした危険な出会い系サイトに、どうして人々が近寄るのか、今後早急に心理学的な分析を要するが、きっかけとなるのは、見知らぬ出会い系サイトから消費者宛に大量に届く電子メールでの勧誘広告だ。これまでアダルト商品の広告、ネズミ講やマルチ商法など悪質商法の勧誘にも多用されており、警察庁や国民生活センターでは繰り返し消費者に注意を呼びかけてきた。実際にも一九九八年には国際ネズミ講「ペンタゴノ」がメールなどで約一一万人を勧誘していたとして、福岡県警に摘発されている。迷惑メール広告が違法行為の温床であることは明らかだ。

 しかし、頼みもしないのに一方的かつ大量に送り付けられるメール広告は、出会い系やネズミ講などでなく一般の業者からであっても、消費者には厄介で迷惑な存在だ。現在では毎日何件もの迷惑メールが消費者の携帯などに絨毯爆撃されて来ることが多いが、受信のたびに内容確認の手間を取らされたり、頼みもしないメールで通信料金を一方的に負わされるのは消費者側だからだ。その反面、迷惑メール送信業者側にはほとんど送信コストが掛からず、経済的な歯止めが利かない。これらの点で、印刷費や郵便料金等のコストを業者側が負う郵送ダイレクトメールとは、構造的に全く異なっている。

 かといって一人当たりの損害額を考えると、消費者が迷惑メール送信業者相手に損害賠償請求訴訟を起こすのは非現実的だ。もちろん携帯などでは、特定の相手からのメール着信を拒否する設定を用意していることが多い。しかし、雨後の竹の子のように迷惑メール送信業者が増え続けている現状を考えると、この設定で対応できる範囲はごく限られている。それに悪質な業者は、消費者からの抗議メールを避けるために、次々と送信元アドレスを変更したり、ときには虚偽のアドレスを使って送信するケースも少なくない。そうなれば送信料金を負担してまで抗議メールを打ち返しても届かず無駄になり、消費者としては手詰まり状態となる。

 こうした背景もあって、最近では善処を求めて携帯各社に大量の苦情が舞い込んでいる状態だ。遅まきながら総務省も四月下旬、携帯各社に迷惑メールへの対応を要請している。

 携帯各社は自分で迷惑メールを送信しているわけではないから、思わぬ側杖をくった形だが、携帯メールでは「電話番号+@」をアドレスに使うことが多いので、「090」に続いて数字8桁を無作為に打ち込めば不特定多数に配信できることが悪用されているのも事実だ。そこで最大手のドコモでは、契約時の初期アドレスを、アルファベットを組み合わせたものに変更する方針を決めた。しかしアルファベットの組み合わせにも数に限りがあるから、今後も業者側との「いたちごっこ」が続くことは明らかだろう。

 こうしたメール広告全般に対し、欧州議会はすでに複数の指令で規制する姿勢を明らかにしている。米国でも複数の州レベルでメール広告規制法を設けており、連邦議会も規制法案を審議中だ。

 わが国では星の数ほど物販・流通業者が営業している。その僅か数%でも一斉に消費者の携帯宛にメール広告を送り始めたらどうなるか、想像しただけで頭が痛くなる状況だ。消費者の携帯が「迷惑メール広告まみれ」になる前に、世界に冠たる携帯ネット先進国を自負する以上、IT基本法一九条で宣言された消費者保護として、迷惑メール広告への効果的な法規制を急がなければならないはずだ。

 

                    以 上