「著作権侵害訴訟の実務」 岡村 久道
著作権は、各種の「権利の束」であると呼ばれている。
すなわち、現行著作権法が認める権利は、著作者の権利と著作隣接権とに大別される。
さらに前者 (著作者の権利) に限定しても、【表1】 のように雑多な権利が含まれている。これには著作者人格権と著作財産権(狭義の著作権)という 2 種類の異質なものが含まれており、財産権だけでなく人格権が規定されている点で特許権とは異なっている。
また、著作財産権にしても、複製権 (21条) や翻案権 ( 27条 ) などを中心として発達してきたものであるが、その発達途上で、ラジオ、レコード、テレビといった新たに登場したメディアに対応するために、少しずつ性質の異なる権利が順次付け加えられて行ったというプロセスをたどっており、現在では、同表記載のとおり、さまざまな種類の権利が規定されるに至っている (*1)。
しかし、なお頻繁な改正によりさらに新たな権利が生み出され続けている。
この点でも基本的に単一の権利である特許権とは全く異なった特徴を有している。
ところで、法律家の間においては、著作権法は非常に難解であるという評価が与えられきたように思われるが、その最大の原因は、このような発達過程を考慮することなく著作権法上の内容の異なった種々雑多な権利を、無理に同一平面上に並べて理解しようとしてきたという点にある。
次に、日本の著作権法では、著作権侵害行為に対し、刑事罰 (119条ないし124条) の対象とされるほか、民事上では、(1) 差止請求 (112条)、(2) 損害賠償請求 (民709条以下)、(3) 名誉回復措置の請求 (115条) という権利救済措置が用意されており、さらに不当利得返還請求 (民703条以下) も可能であると解されている。したがって、その基本的な枠組みは特許侵害の場合と類似している。
しかし、著作権も特許権その他の権利と同様に最終的には訴訟により権利保護が実現されるべきものであるから、裁判実務の体系的分析は不可欠である。
ところが、我が国でも既に相当量の判例理論が蓄積されてきているにも拘わらず、特許権と比較しても著作権については現在に至るまで侵害訴訟という観点から踏み込んだ実務的な分析は少ないままにとどまっている。
この点が著作権に関する理解を妨げてきた第2の原因である。
そこで、本稿では、著作権侵害の最も基本的な形態である複製権・翻案権侵害事件を中心に、著作者人格権を付加して、著作権侵害訴訟について特許侵害訴訟と比較しつつ裁判実務という観点から考察を加えることにする。