「悪徳商法と消費者被害」 Hisamichi Okamura
1 意外に身近に潜む悪徳商法
ただいま御紹介を頂きました大阪弁護士会会員の岡村久道です。
本日のお話は「悪徳商法」という題名となっております。
ところで、わたしは、本日、ここへ参る前に仕事がありまして、その道順で、梅田の阪神百貨店の横からJR大阪駅の東口の横を抜けまして、阪急百貨店へと横断歩道を渡って、ここまで歩いて参りました。
今申しました道順は皆様方もご存じと思いますし、この中には同じ道を歩いてこられた方も、もしかすればいらっしゃるのではないかと思います。
普通ですと、阪神梅田からJR大阪駅東口へ行くには地下を歩いた方が信号もありませんので良いのですが、かれこれもう春だ、桜の季節だということもありまして、今日は地上にあるエスカレーター付きの陸橋を渡って参ったわけです。
実は、この陸橋と申しますのは、非常に危険な陸橋なんですね。
何が危険かと申しますと、別に陸橋の橋桁にヒビが入っていて危ないという意味ではありません。
あの陸橋の上で、若い男性や女性が「アンケートにご協力下さい」と言って通行人に近寄ってくる。
こういうことがあるという事実を皆さんはご存じでしょうか。
たまたま今日は偶々見かけませんでしたが、私が陸橋を通る度に、ほぼ毎日「アンケートにご協力下さい」と言ってウロウロして、若い女性なんかに声を掛けています。
その人達が一つのグループなのかは必ずしも判りません。
ただ、弁護士会で消費者問題を中心に扱っている知り合いの弁護士なんかにも聞いたのですが、要するに「キャッチセールス」だということです。
この「キャッチセールス」と申しますのは、アンケートをきっかけとして通行人をキャッチする・・・。
何のためにキャッチするのかと言えば、別に何の目的もなしにキャッチするわけはありませんので、やはりそれなりの目的があるわけです。
その目的と言いますのは、勿論、ナンパでも何でもありません。
第一、ナンパのきっかけにアンケートをさせられて、「君はなかなか可愛いね、素敵だからアンケートが書き終われば一緒に遊びに行きましょう」と誘ったところで、そんな変な人に誰もついてくるわけがありません。
この陸橋の件に限りませんが、そのアンケートと申しますのは、何かの社会問題や宗教か何かに興味があるかどうかという場合もあります。
しかし通常は、例えば特定の商品をどう思うかといった、他愛のない内容であるのが普通です。他愛のない内容であるからこそ、声を掛けられた人も、拒みにくかったり、ある程度は警戒心が薄れたりするのです。
それで次に、商品のアンケートを取るので年齢や職業とかお住まいなんかも聞かせて欲しい、となって参ります。
一応理屈は通っているし、嫌な思いもしたくないので、ついつい応じてしまう、それだけで終わればよいのですが、アンケートが済めば、次に待っていますのは、「もう少し詳しい内容を聞かせて欲しいし、その商品も一度自分の目で見て意見を聞かせて欲しいので、近くに店があるから来てくれませんか」、そう言って、自分たちのオフィスに連れて行きます。
あとは、例えば安物の羽毛布団とか、キモノなんかを高い値段で売りつけることになります。
その方法というのは、これを買えば如何に得をするかを延々と並べ立ててその気にさせたり、場合によっては、数人がかりで相手をして「ああでもない、こうでもない」と長時間にわたり粘ってみたり、気の小さな人であれば、買わなければいつまでもここから返してくれないのではないかと思わざるを得ないほどの、時には脅迫まがいの程度であることも少なくない訳です。
私も(本職は)弁護士ですので、あの陸橋を通るときに、どんな人が声を掛けられているのかに興味を持ちまして、私も決して閑ではないのですが、少しの間、見ていたことがあります。
そうしますと、やはり圧倒的に若い女性が多いのです。中でも、如何にも人が良さそうな方が声を掛けられています。そういうタイプの方にとっては、アンケートというと、やはり断りにくいのでしょうね。
逆にいえば、声を掛ける側も、どちらかというと、気が弱そうで断れないタイプの人を優先的に選んで声を掛けているのではないかと思われます。
私も最後まで見届けなければ心配ですので、呼び止められた人がアンケートだけで別れられたのを見てるかホッとしてその場を離れます。
しかし、私が見ている前では引っかからなくとも、彼あるいは彼女らが、そういった商法を続けているということは、残念なことではありますが、やはり引っかかってお金を巻き上げられる人が確実に存在している、つまり、確実に被害者が発生しているということを意味しているわけです。
以上のお話で、何を申し上げたいのかと言いますと、要するに、あの大阪駅東口と阪神とを結ぶ陸橋を、たまたま渡ったというだけで、運悪く被害に遭われる人がいる、そう言った意味で、本日のテーマである悪徳商法というのは、遠い世界の出来事ではなく、この建物から、わずか歩いて10分か15分かの場所で、ほぼ毎日繰り広げられているといった、意外に身近に潜んでいる危険であることを、先ず最初に、ご理解いただきたかったわけです。