この事件は、つい最近の茨城カントリークラブ事件があります。これは、常陸観光開発株式会社という会社が、自社が経営する茨城カントリークラブのゴルフ会員権について、パンフレットなどの募集要項には、募集会員数を合計2830名限定と記載しながら、実際には約5万2000人もの会員を募集して会員権を乱売して、入会金や預託金の名目で、約1000億円ものお金を巻き上げて、そのお金を関連会社に流していたという事件です。要するに、バブルによってゴルフ会員権に猫も杓子も投資をする、そういったブームを悪用したわけですね。
しかし、会員が約5万2000人も居れば、クラブの会員になっても一生プレーできないかもしれませんし、到底そのような無茶苦茶なゴルフ会員権が値上がりするとも思われません。
このような会員権の乱売は、発売当初から業界関係者の間では噂になっており、週刊誌やワイドショーでも取り上げられていました。そこで、平成3年7月に東京国税局が会員権販売代理店を脱税容疑で捜査した際に、そこで押収した書類から、会員権乱売の事実が明らかになって、社会問題となりました。
そういうことがあって、この会社は手形の不渡りを出して倒産し、約4ヶ月後に破産宣告を受けました。この事件がきっかけとなって、翌平成5年には「ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律が制定されました。これによって、著しく多数の会員募集をおこなったりするというような事態はその後は一応は回避されることになりました。しかし、豊田商事事件の際の鹿島商事の一件で、このような無茶苦茶な会員募集がおこなわれることは、監督官庁には予想できていたことですので、余りに遅きに失したという感じは否めません。
被害総額である約1000億円もの金額と申しますと、大企業でも、それだけの年間売上を上げている企業など、そうそうあるわけではありません。それほどものすごい金額です。
デート商法(恋人商法)
例えば、デート商法のように、突然若い異性に喫茶店まで電話で呼び出され、恋愛まがいの感情を植え付けたところで販売店に連れていって、出来の悪い学習用教材や和服などを高い値段で売りつけるという悪徳商法もあります。
霊感商法
霊感商法というのは、宗教を隠れ蓑にして、例えば「水子の霊がついているので、このままでは不幸が続く」などと言って不安に陥れ、それを避けるために必要であるなどと言って、高価な商品を買わせたり、高額な祈祷料を出させるというタイプの悪徳商法です。霊感商法で人を騙すテクニックというのは、人の弱みにつけ込むという特色があります。例えば、比較的安い料金で「霊視」を受けさせることから始まるケースが少なくありません。そういった人には、病気や肉親の死、夫婦仲が悪いというような悩み事があるから「霊視」を受けようと思う場合が多いわけです。そして、悩みにつけ込んで「水子の霊がついているので、このままでは不幸が続く」などと言って不安に陥れ、高価な商品を買ったり、高額な祈祷料を出さなければ悩みが永遠に解決されないと信じさせるのです。霊感商法は、このような人の悩みにつけ込もうとする点で、極めて卑劣であると言わなければなりません。そして、徒に不安をあおって、心理学的に見れば、不安な状態の時には好意や権威にすがりたくなるという効果が認められていることを悪用したものです。
士(さむらい)商法
次に、士(さむらい)商法ですが、これは、私的な資格であるのに公的な資格であるように装ったり、国家試験が免除になるなどと偽って高額の料金の講座の受講を勧誘するものです。
催眠商法(SF商法)
さらに、無料で物をくれるという宣伝で人を集めて、狭い会場に人を押し込め、ただで物を貰うためには数に限りがあるので早い者勝ちだから手を挙げて大声で欲しいと言うよう指導して、参加者を競わせて興奮状態(一種の催眠状態)にします。そして、最後には、安物の羽毛布団を、これは高価な品だから只というわけにはゆかない、だけども決して普通では買えない超安値で限定10名にだけ売ってあげる、早い者勝ちだ、欲しい人は手を挙げて大声で欲しいと言いなさい、と持ちかけます。ところが、その頃には、みんな興奮状態で、損をしたくないために、何でも手を挙げて大声で欲しいと言う癖がついています。悪徳商法をする詐欺師達は、こうして安物の羽毛布団を集団催眠状態の中で買わせるのです。
キャッチセールス
最初に説明をいたしましたキャッチセールスも悪徳商法の一つですが、これは、アンケートに応じることや、誘われて店まで行くこと自体は自分の意思ですので、そのことが自分のその後の行為に対する足かせとなってしまい、その商品の購入まで自分で決めたと思わされてしまいます。これを心理学では「一貫性の原則」と言います。自分の行動の一貫性を保ちたいという動機を利用するものです。私が最初に悪徳商法は高度な心理学の悪用であると言った意味がご理解頂けたと思います。
そういたしますと、我々としてはどのように対処すれば良いのでしょうか。
先ず第一は、当然のことですが、少しでも胡散臭いと感じたら近寄らないことですが、これが意外と難しいことなのです。私はかつて豊田商事被害者弁護団の先生とお話をしたことがあります。そのとき、豊田商事被害者弁護団の先生は、彼らの作ったセールス用ビデオを見たとき、自分でも騙されると思ったと述べていました。
最後に、万一、不幸にして騙されてしまった場合、どうしたらよいかですが、一人で悩まないで、すぐに専門家である弁護士会や消費者相談センターの相談窓口でアドバイスを受けるべきです。大阪府立消費生活センターは桜橋にありますし、大阪弁護士会は西天満にあります。どちらも、ここから歩いてでも行ける距離です。また、中の島の大阪市役所でも、毎日のように弁護士による無料法律相談がおこなわれています。お知り合いの方が被害に遭われた場合は、皆さんとしても、この点を是非アドバイスしてあげて下さい。
もっとも、弁護士が被害者の方から委任を受けて、騙し取られたお金を取り返そうとしても、なかなか難しい問題があるのが現実です。直接被害者を騙したセールスマンは、どこかへ逃げてしまって捕まらなかったり、悪徳商法の元締めである会社も、あのてこの手を使って追求を免れようとします。例えば、すぐに会社の名前を変えたり、その会社の本店であるという場所に行ってみると別の会社の名前で営業したりしている。そんな例が、現についこの間もありました。損害賠償請求の訴訟を起こしたのですが、そういうことでなかなか訴状を受け取ろうとしない、裁判所の執行官が訴状を送達しに行っても、あの会社と内の会社とは別だから、受け取れないと言うわけです。おそらく、被害者の方が文句を言いにいっても、別の会社のことだから、そんなことを言われても困ると言って、いつも誤魔化し続けてきたのでしょう。
その事案の場合は、悪徳商法をしている会社の社長の自宅に訴状を送達して事なきを得たのですが、今度は裁判に出てこない、勿論、判決で勝っても払おうとしない、それで、銀行預金口座を差押えして、とうとう回収することができました。しかし、この事案などはましなほうです。
豊田商事にしても、茨城カントリークラブにしても、さんざん悪いことをやって、たくさんの被害者を生み出しながら、最後は破産させて見ればお金は残っていない、そういうことが実際には多いわけです。
そういう意味で、最も重要なことは、被害に遭わないように十分に気を付ける、少しでも胡散臭いと感じたら近寄らないということです。この点が、本日私が申し上げたい最後の、そして一番大事な点なのです。
長時間に亘り、ご静聴有り難うございました。