3 電子ネットワークのために新条約は作られた

 

 

このような状態を踏まえ、ネット上のデジタル著作物を十分に保護するために、WIPO(世界知的所有権機関)が音頭をとって、おととし(1996年)の12月、国際的協調を旗印に新条約を作り、これに基づいて日本でも去年(1997年)の6月に著作権法を改正することになった(施行は1998年の正月から)。これが冒頭に述べた改正著作権法である。

日本では改正前から、「他人の創作したコンテンツを無断でサーバへアップロードする行為は著作権法が定めた『複製権』を侵害するもの、インターネット上でユーザーからのリクエストに応じてインタラクティブ送信する行為は『有線送信権』を侵害するもの」と考えられていた。

簡単にいうと、『複製権』というのは複製物(コピー)を作っていいかどうかを自由にコントロールできるという権利、『有線送信権』というのは公衆が直接受信することを目的として電気ケーブルを使って送信していいかどうかを自由にコントロールできるという権利なのだ。

少し専門的な話になるが、今回の改正でインターネットのようなインタラクティブ送信に関して定められたことを紹介しよう。

まず第1の改正として、著作権者に「公衆送信権」が付与されたことがあげられる。改正前には無線を使った公衆への送信は、著作権法上「放送」として取り扱われていただけであった。無線によるインタラクティブ送信などは想定されていなかったのだ。しかし、衛星放送のような一種の無線のカテゴリーに含まれる媒体を使ってインターネットを流そうという計画が進められている現代には、「無線送信」を「有線送信」と区別すべき理由はどこにも見あたらなくなった。そこで、インタラクティブな「有線送信」と「無線送信」とを統合し「公衆送信権」として保護することになったのである。

 つまり、いくら名前の上では衛星「放送」と呼ばれていても、本来の放送番組を流す場合と異なり、インターネットを送信するための媒体としてインタラクティブに使用する場合には、同じ番組を一斉に多くの人に流すわけではないから「放送」とは呼べない。

だからこれを、著作権法上も「放送」のカテゴリーに当てはめて保護することには無理がある。かといって、「衛星」は「無線」だから、改正前には著作権法上の「有線」送信として保護することもできなかった。結局のところ、改正前には、著作権法には、うまく当てはまる条文が存在しなかったのだ。もちろん、この場合も、前述のように、サーバへのアップロードをとらえて著作権者の複製権を侵害すると構成することも不可能ではない。しかし、素直に考えれば、サーバへのアップロードすることよりも、サーバから公衆に向けて無断で他人のコンテンツを送信することこそが本質的な問題であるはずだ。だから、この送信という部分について正面から保護するのが正しい姿勢ということができるだろう。

 これに対し、改正後は、「無線」と「有線」との区別がなくなったので、衛星放送を媒体としてインターネットを送信する場合には「公衆送信権」のカテゴリーに当てはめて、無理なく著作権法による保護を及ぼすことができるようになった。

 第2に、実演家やレコード製作者などについては、改正前にはインタラクティブ送信につき前述の有線送信権すら認められていなかった。かといって、レコード製作者などが有する複製権を侵害したとするのも、前述した理由からすれば、コトの本質から少し外れているような感覚が残ってしまう。やはりサーバから送信すること自体を問題にするのが法律としての正しい姿勢なのだ。そういうわけで、レコード製作者などを保護するために、今回の改正で「送信可能化権」という新しい権利が付与されることになった。これは、公衆からのリクエストに応じてコンテンツを自動的に送信できる状態に置くかどうかについて、自由にコントロールできるという権利だ。

 このように説明すると、なぜレコード製作者などの場合は「公衆送信権」ではなく「送信可能化権」なのかという疑問を持つ人もいるだろう。実は、もともとレコード製作者などは、著作物を創作した者ではないので、著作権ではなく、著作隣接権という副次的な権利によって保護されているにすぎない。だから、著作権者と同一の強い保護を与えられているわけではない。それに、送信可能な状態に置くかどうかの時点をとらえて一括してライセンスを受けることができれば、インターネットラジオ局を作ろうとした場合でも大量の権利処理が可能になり面倒も少ない。そこで、これらの者には改正法で「送信可能化権」を与えることにしたのだ。

 

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