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スパムメールをめぐる米国及び日本における法的規制
7 日本における法律問題 わが国では、スパムについては、「インターネットねずみ講」や「マルチ商法勧誘メール」など、むしろ悪徳商法をはじめとした電子メールの内容の有害性ばかりに重点が置かれてきた。この点で、内容の有害性以前にスパムの送信自体を問題視してきた米国とは、大きく事情が異なっていた。 このような中で、ニフティサーブが、自己の会員に対し 4年近くの間にわたりスパムを送信し続けてきた者に対し、スパム送信禁止を求める仮処分を日本で初めて提起し、浦和地方裁判所は、1999年3月9日、「債務者は、債権者がプロバイダーとして運営しているニフティサーブの会員に対し、わいせつビデオ販売を内容とする電子メールによるダイレクト・メールを送信する一切の行為をしてはならない。」として、ニフティの請求を認める旨の判断を下すに至った。本件仮処分申立書によれば、仮処分により保全すべき権利は、「電子メールの送受信サービスを提供し社会的信用を維持する権利及び営業資産を第三者に損壊されることなく電子メールの送受信サービスの提供のために常に良好な状態に保つ権利に基づく妨害排除請求権」とされている。 さらに、その説明として、@「債権者のニフティ会員に対するサービス提供上の損害」、A「債権者の社会的信用が毀損されること」、B「債権者はニフティ会員からの苦情に対処措置に忙殺されていること」を掲げている。 上記@については、スパムによりニフティ会員のメールボックスが容量オーバーになって必要なメールが受信不能になりかねないこと、実際にニフティ会員に付与されていないアドレス宛に送信されたスパムを発信元へ返送処理しようとしても、スパマーが架空のメールアドレスを詐称しているので、返送できずにニフティのメールサーバに滞留してしまうことなどが記載されている。 Aについては、望んでいないにもかかわらずスパムが会員に費用を負担させること、ニフティ会員のメールアドレスに使用される IDがアルファベット3字に数字5字を付け加えたものを基本としていることから、スパマーはアルファベットと数字とをランダムに組み合わせて送信していたものと思われるが、スパムを受信することにより、会員の個人情報をニフティが漏洩しているという疑念が生じるおそれがあることが記載されている。Bについては、会員からニフティに対し、スパムを防止するための適切な措置を講じるように苦情が寄せられており、対処するために余計な時間を割いていることが記載されている。 以上のとおり、この申立書は、基本的には前述した米国判例とほぼ同様の内容により構成されており、この事件を契機に今後は日本でも同種の事案が裁判所に持ち込まれるケースが増加することが予想される。しかし、スパマーをどのようにして特定し仮処分申立書や訴状を送達するのか、スパム禁止の仮処分や判決が下された場合であっても、これにスパマーが違反したときに、どのような実効性を持った是正措置を講じることができるかなど、残された問題の解決方法をみつけることは容易とはいえない。
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