「著作権侵害訴訟の実務」 岡村 久道
U 著作権侵害訴訟の全体的枠組み − 著作権侵害行為の意味
1 著作権侵害行為の意味
最初に、 著作権侵害訴訟の全体的枠組みを理解してもらうために、 著作権侵害行為の意味について説明する。
行灯事件に関する京都地判平成7年10月19日判時1559号132頁は、 この点を次のとおり説く(本判決にいう「改作利用権」とは「翻案権」を中心とする権利である)。
「 著作権侵害行為は、既存の著作物を利用してある作品を作出する場合に成立するが、その利用の態様としては、
<1>既存の著作物と全く同一の作品を作出した場合、<2>既存の著作物に修正増減を加えているが、その修正増減について創作性が認められない場合、<3>既存の著作物の修正増減に創作性が認められるが、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われるに至っていない場合、<4>既存の著作物の修正増減に創作性が認められ、かつ、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われてしまっている場合が存在する。そして、著作権(著作財産権)との関係からいえば右<1><2>の場合は著作権中の複製権(著作権法二一条)の侵害であり、右<3>の場合は著作権中の改作利用権(同法二七条)の侵害であり、右<4の場合には、全く別個独立の著作物を作出するものであって、著作権侵害を構成しない。また、著作者人格権との関係からいえば、右<2><3>の場合が同一性保持権の侵害であり(最高裁判所昭和五五年三月二八日判決民集三四巻三号二四四頁参照)、右<4>の場合は著作財産権の場合と同様、侵害にあたらない。したがって、著作権ないし著作者人格権に対する侵害の有無は、原作品における表現形式上の本質的な特徴自体を直接感得することができるか否かにより決められなければならない。」(傍線筆者、以下同じ)
以上を表で示すと、次のとおりとなる。
2 著作権侵害成立のための最低限の要件
この判決の説示は、実務の一般的な考え方に立脚しているもののように思われる。
そこで、これを分析すると、著作権侵害が成立するためには・・・
(1) 既存の他人の「著作物」(原作品)が存在していること。
(2) 原作品を「利用して作品を作出」すること。
(3) 作出された作品が、「原作品における表現形式上の本質的な特徴自体を直接感得することができる」ものであること。
・・・という要件をすべて満たしていることが最低限必要とされている。
さらに、(1)の点を、著作権侵害訴訟の請求原因という観点から再構成すると、著作権法の保護対象である著作物性と、当該著作物に関する原告への著作権の帰属との2つの要件に分類することができる。
また、(2)は「依拠性」の要件と呼ばれており、(3)とともに「侵害行為」を構成する要件である。
(3)の要件は「表現形式の同一性」の範囲内か否かの問題と呼ばれることもあるが、被告による侵害物(例えば出版された書籍)を特定した上、原作品と侵害物との対比により(3)を基準として判断されることになる。
侵害予防の差止請求の場合には前記(3)については侵害のおそれのある行為で足りるし、損害賠償請求や名誉回復措置の請求については他の要件が必要であるが、これら点については後述し、先に前記(1)から(3)までの要件につき説明を加える。