原野商法とは
そこで、現代の複雑化した詐欺まがい商法の実例として、「原野商法」のお話をしたいと思います。
「原野商法」と申しますのは、悪質な不動産販売業者が、北海道の山奥の原野のような無価値に等しい土地を、「近く北海道に新幹線が通って地価が確実に値上がりする」などと偽って、言葉巧みに高額で売りつけるというタイプの悪徳商法です。
どのようにして騙すのか
「原野商法」は、列島改造論やバブルによる土地ブームの度に登場しているのですが、それでは、どのような手段を使って、彼らは二束三文の原野を高い値段で売りつけてきたのでしょうか。それは、次のような方法です。
まず、訪問したセールスマンが立派なパンフレットを見せます。ときには、芸能人の推薦文も入っているわけです。そして、例えば、新幹線が予定されているかのような新聞記事を見せて信用させます。そこでの殺し文句として「確実に値上がりする」「必要であれば当社が買い取ってもよい」「他にいくらでも買主はいるので、早く決断してもらわなければ他の人へ売る」などと迫るのです。さらに、長方形に区割りされた現地の地積測量図を見せて、あたかも造成が完了した平坦地のように誤信させることもあります。
購入代金は、そんなに高額ではないし(例えば1坪当たり3000円とかで、総額でも100万円?200万円程度)、北海道のような遠方であるので、買う前に現地を見に行かずにお金だけ払う例が多いという特徴もあります。こうして騙されてお金を払うのです。ところが、実際には、新幹線は通らないし、現地へ行くのも困難な山奥で、その土地がどこの部分かを特定することもできないことに後になって気がつきます。なお、最近は、北海道ではなく、三重県の名張でも、電気も水道もないので住むこともできない土地を宅地と言って売りつけるケースもあります(欠陥造成地)。
背景にあるもの
この騙しのテクニックとも言うべきものの背景にあるものに注意しなければなりません。
まず、「新幹線が予定されている」「必ず値上がりする」という誘い文句を言うことにより、「得をしたい」「損をしたくない」という欲望を刺激しています。
次に、芸能人の推薦文入りの豪華なパンフレット、新聞記事、地積測量図という専門文書を見せ、「必要であれば当社が買い取ってもよい」などと言って安心感を与えます。この点が用意されていることが、「得をしたい」だけでなく「損をしたくない」という気持ちに訴えます。ときには、「この土地は芸能人の○○さんも買っているのですよ」と言って安心させることも少なくありません。実際に、高田好吉という往年の大スターが原野商法に加担してとして訴えられたケースがあり、裁判所はこのスターの責任を認めています。
《7頁示す》さらには、あせりをかき立てて契約を急がせるというテクニックも使われます。「他にいくらでも買主はいるので、早く決断してもらわなければ他の人へ売る」などと迫り、契約を急がせるのです。じっくり考えれば、どこかおかしいことに気付かれてしまいます。本当に確実に値上がりするというのであれば、不動産業者が売り急ぐ必要はないはずです。
他方で、「必要であれば当社が買い取ってもよい」などの肝心な部分は口頭で説明するだけで、決して証拠は残しません。
原野商法による第二次被害
かつて原野を売りつけられ転売できずに困っている被害者が集中的に狙われ、悪質不動産販売業者が、高額の買主を斡旋してやると偽って、これをエサに、測量費、広告費、登記料などの名目で、新たに金銭を騙し取るケースもあります。
これが原野商法による第二次被害という問題です。
被害者としては、まさに「泣きっ面に蜂」であるわけですが、第一次被害の加害者である悪質不動産販売業者と、第一次被害の加害者である悪質不動産販売業者とは、同一の会社かグループ会社であることが多いのです。なぜ2回も騙されるのかといいますと、被害者は人が良いということもありますが、被害者が困っていることを悪用するという点で、実に卑劣な犯罪です。