マルチ商法といいますのは、ある商品を買うと会員になれる、会員になっても何らかのメリットがなければ話になりませんが、ここからが問題です。つまり、会員になってどんなメリットがあるのかと申しますと、さらにその商品を買って会員になってくれる人を紹介すると紹介料がもらえる、その紹介料が結構な金額になっています。
お客さんを紹介してお金をもらうのですから、それだけからは、一見すると何も悪いことをしているようには思えないかもしれません。
でも、ここでもう一度考えていただきたいのです。
例えばAさんという人が商品を購入して会員になった場合、その商品自体は大した値打ちのあるものではありませんので、元を取ろうと思った場合は、新たにBさんとCさんとを紹介して商品を買わせて会員にさせ、紹介料をもらうしかありません。このことは、Aさんから紹介を受けたBさんやCさんの場合でも同じです。
やはり元を取ろうと思えば、BさんとCさんとは、それぞれ知り合いのDさんとかEさんとかFさんとかGさんとに商品を買って会員になってもらうように何とか説得して紹介して紹介料をもらうしかありません。つまり、AさんからGさんに至るまで、みんながみんな、その商品に魅力があるから買うんだというのではなくて、単に紹介料が欲しいから会員になってくれる人を探す、ところが、買ってくれる人は必ずしも簡単に見つかるわけではありません。
それでも、紹介料は結構な金額になっているので、お金欲しさに必死で親類や友達を勧誘する、しかし、どこか胡散臭いから、なかなか勧誘はうまく行かない、勧誘がうまく行かないから、だんだん強引に勧誘するようになったり、騙してでも勧誘をするということになってまいります。
他方で、マルチ商法の本部としても、単に紹介料というのでは、如何にも胡散臭い感覚を拭えないので、本部からAさんが商品を仕入れてBさんとCさんとに転売をして仕入代金と販売代金との差額がAさんの利益になるという形を取っています。
一応は真っ当な商売の形を取って、少しでも胡散臭さを払拭しようとするわけです。でも、これは形だけで、実体は紹介料ですので、やはりまともな人なら胡散臭いと感じるわけです。
そこで、マルチの会社としても、騙して会員にするために別の大道具を用意する。それが盛大なパーティーです。
Aさんが詳しいことを説明せずにBさんやCさんをパーティー会場に連れて行く、場所は豪華な会場で、料理なんかも高級なものが用意されている、そこでは、この商売で成功して大金を手にしたという人の体験談の講演なんかがあったりして、如何にビッグなビジネスであるかを強く印象づけるわけですね。そして、BさんやCさんは、会員から握手責めにあって、これではもう会員にならなければ大きなチャンスを逃すし、これだけ大勢の人が会員になって成功しているのだから大丈夫だ、安心だという心理にさせられてしまう、一種の集団催眠のようなものですが、こういった大道具が巧みに用いられています。
なぜ、感覚的にみんなが胡散臭いと感じるかといいますと、マルチ商法の正体は、法律で禁止されている「ねずみ講」なんですね。
「ねずみ講」と申しますのは、テレビの時代劇なんかでも、時々「頼母子講」という名前で登場しますが、例えばAさんという人が「ねずみ講」に入るためには一定の金額を出資する、そして、新たにBさんとCさんとを入会させて「ねずみ講」に一定の金額を出資させると、Aさんは配当がもらえる、このことは、Aさんから紹介を受けたBさんやCさんの場合でも同じです。
やはり元を取ろうと思えば、BさんとCさんとは、それぞれ知り合いのDさんとかEさんとかFさんとかGさんとを「ねずみ講」に入らせて一定の金額を出資するよう何とか説得して配当をもらうしかありません。
そうしますと、マルチ商法では、前に申しましたように、その商品に魅力があるから買うんだというのではなくて、単に紹介料が欲しいから会員になってくれる人を探すだけですので、「ねずみ講」の配当が、マルチ商法では紹介料にすりかわっているだけなんです。
「ねずみ講」は法律で禁止されていますので、マルチ商法で使われる商品は、「ねずみ講」の脱法行為をおこなうためのギミックというか小道具に過ぎないわけです。
「ねずみ講」がどうして法律で禁止されているかと申しますと、「ねずみ講」は、たしかに入会者が無限に存在すれば損をする人はいないわけですが、入会者が無限に存在するなんてことは、これはもう日本の人口に限りがあることからしても有り得ないわけです。
また、いくら日本の人口が多いと言ったって、日本中の津々浦々で、みんながみんな「ねずみ講」に入会するわけもありません。ごく一部の地方のごく一部の人たちだけです。
そうしますと、遅かれ早かれ「ねずみ講」の入会者には限界が訪れて、後のほうで入会して出資した人はお金を回収できなくなってしまう、また、そうならないように、騙すとか脅すとか、違法な手段を使って強引な勧誘をする、だから「ねずみ講」は禁止されているのですが、これと全く同じ事がマルチ商法にも当てはまることになります。
現に、あるマルチ商法の事案で、とある大学生が知り合いの高校生を強引に勧誘して、その高校生がサラ金からお金を借りて入会して、それを家族に言えないものだから、とうとう自殺してしまったという痛ましい事件も発生しました。それが昭和50年の9月のことです。
こんな酷い事件も発生したので、とうとうマルチ商法も規制されることになり、昭和51年には、訪問販売法が成立して、その中で実質的に禁止されることになりました。ところが、悪い人は色々なことを考えます。
訪問販売法の中で実質的に禁止されているのは、商品の販売という手段を使ったマルチ商法ですので、そうであれば、商品の販売ではなく、例えば商品販売の仲介というスタイルや、商品ではなくてサービスを対象とするのであれば、訪問販売法の中で実質的に禁止されているマルチ商法にはあたらないとして、今度はマルチまがい商法を始めたわけです。そこで今度は、昭和63年に訪問販売法が改正されて、そういうマルチまがい商法についても規制されることになりました。