岡村 久道
      

1 はじめに

2 個人情報と電子ネットワーク

3 最近の不正流出事件

4 1970年代の個人情報保護法

5 OECDプライバシー・ガイドライン

6 欧州の対応

7 米国の動向

8 わが国の対応

9 わが国の民間部門における個人情報保護制度の内容

 

 

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(初出 1998/5/24)

Hisamichi Okamura

 

 はじめに

 

 今日、「電子ネットワークとプライバシー」という言葉は、サイバー法の分野において解決されるべき最も重要な課題の一つであると考えられている。

 しかし、この課題は決して単一の問題ではない。実際には、複合的に相互関連を有しつつ異なった諸種の問題が含まれている。

 たとえば、ネットワーク・サーバに対する不正アクセスによるデータの「のぞき見」は、「セキュリティ」という言葉との関連で語られることも多い。しかし、不正アクセスの対象となるデータに個人情報が含まれていれば、「のぞき見」はプライバシーに対する脅威として評価されることになろう。

 同様に、ネットワークを流れている送信途上のデータを傍受しておこなわれる盗聴(のぞき見)も、プライバシーに対する重大な脅威であると解されてきた。すなわち、送信データの暗号化という技術は、送信途上の「のぞき見」を防止することを可能にするが、電子商取引分野における送信中のクレジットカード番号の盗難防止などのセキュリティー確保を超えて、プライバシーに関するセキュリティーを保護するための重要なツールであることに注意しなければならない。

 このような観点は、Phil Zimmermann が作成した世界的に著名な暗号ソフトが、"Pretty Good Privacy"(PGP) と命名されていることにも如実に示されている。

 この文脈上で考えると、米国のクリッパーチップからキーリカバリーへと続く暗号技術に対する法規制も、一方においては暗号技術の輸出規制に伴う米国ハイテク企業の国際競争力減殺という視点で捉えられるだけでなく、他の多くの論者から、政府による「のぞき見」を可能にするものとして、「個人のプライバシーに対する国家による侵害の危険」という視点で捉えられることになる。

 以上のような複合的に入り組んだ諸問題の中において、伝統的にコンピュータやネットワークと関連してプライバシー問題の中心として語られてきたのは、ネットに集積された個人情報との関係において、どのようにしてプライバシーを保護すべきかという問題であるので、「個人情報保護」という文脈で語られることも多い。

 セキュリティ関連の問題は別稿に譲り、本稿ではネットワーク上に集積された個人情報とプライバシー保護の問題を中心に説明を加える。

 

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